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「アレク。よ、姫さんも」
主の後ろで心持ち赤い顔をしているユスティニアに、フラッドは人懐っこい笑顔を向けた。
「茶でも飲んでゆっくり、と言いたいところだが。アレク。あの人がお呼びだ」
後半は真剣な顔をしてフラッドはアレクに言った。
『あの人』が誰のことか、アレクシードはすぐに理解した。
いつもなら「あの人なんて言うな」と噛み付くところだが、彼の表情を見てその言葉を飲み込んだ。
「わかった。すぐに行く」
踵を返したアレクシードは、後ろにいたユスティニアにはたと気づいた。
彼女の頬はいつもより僅かに赤く、彼女の生まれを象徴する紫の瞳は潤んでいる。彼の名を呼びかけて開きかけた唇は、いつもよりも濡れてぷっくりとして見えた。
それもそのはず。二人はつい先ほどまで、互いの気持ちを確認しあうように濃厚なキスを交わしていたのだ。
押さえつけていた熱が油を注ぎ込まれたかのように全身にかっと燃え広がる。それと呼応するように下腹部が硬くなり始める。
俺はガキか!
彼はそう自分を罵ったが、無理もない。もう何年も無自覚に、彼は我慢をし続けてきたのだ。
目の前には此度の式典により、ユスティニアの成長振りが公にお披露目された。聡明な美姫としての噂がすでに近隣諸国に広まっているだろう。彼女自身にはその自覚がほとんどないが。
アレクシードもその事実に気づかないふりをしてきた。暴走しそうになる気持ちと体を幾度も押さえ込み、何とか今日まできたのだが、それももう終わりそうだ。そう思った途端、体は正直な反応を示した。
しかし、今は当然ながらその時ではない。
戦場で鍛え上げた精神力で淫らな妄想を押さえ込み、アレクシードはユスティニアの頭を軽く叩いた。
「陛下の御前に向かう。もう大丈夫だと思うが、お前はここにいろ」
ユスティニアはアレクシードの黒い瞳を見つめてこくりと頷いた。
それを見届けて、アレクシードは扉を開いて出て行った。