Page: 1/14
「ユティ。どうしてそんな格好してるんだ?」
アレクシードはユスティニアを見て、開口一番、そう言い放った。
ユスティニアはいつも下ろしている柔らかな金の髪を左右に分けてふんわりとしたおさげにしており、いつも着ている高級なシルクのドレスが、なぜかコットンのエプロン付きドレスになっている。おさげの先のリボンは赤いチェックのリボンがついており、コットンのドレスとおそろいになっていた。
ユスティニアはむっとした顔でアレクシードを見返した。
「そんな格好とは失礼であろ!ちゃんとした街娘の服装じゃ」
「いや。まあ、それはわかるけど」
アレクシードには彼女の意図がわからない。まあ、彼女に関してはだいたいがわからないことだらけなのだが。
突然、出兵が決まったアレクシードだったが、その前にユスティニアをどこかに連れて行ってやろうと考えた。彼女にどこか行きたいところはないかと尋ねると、城下がいいと告げた。そして、今、彼女とともに城下へ降りるために彼女の部屋へやってきたのだが、彼女はなぜか街の娘たちのような服装で鏡の前に立っていた。
ユスティニアは何度も鏡の前でくるくると回っていた。にこにことしているところを見ると、意外と街娘の服装が気に入ったのかもしれない。アレクシードは微笑んだ。
納得がいったのだろう。小さく「よしっ」と言ったかと思うと、今度はアレクシードの方を上から下まで眺めて首をかしげた。
「アレクはいつもその格好で街に行くのか?」
変なことを聞くなあ、とは思ったが、アレクシードは素直に「そうだけど」と答えた。
アレクシードは正装をしなければいけない場合を除いて、基本的にいつも同じような格好だ。髪や瞳と同じ黒を基調にした動きやすい服装が多い。しいえていば、街に行くときは派手なマントを着用せず、飾り気のない外套を羽織るくらいだろうか。
アレクシードの返事を聞いて「ふうん、そうなのか」と言ったきり黙りこんでいたユスティニアだったが、不意にアレクシードの腕を取り、鏡の前に立たせた。
「な、なんだ!?ユティ」
「黙って立っておれ。よくわからぬであろうが」
アレクシードを鏡の前に立たせ、ユスティニアはそれを少し遠くから眺めている。そして小さく何か呟いていたかと思ったら、今後は一緒に鏡の前に立ち、鏡に映った二人の姿を上から下まで仔細に眺めている。
「ど、どうしたんだよ」
「見ておるのじゃ」
「な、何を?」
「ちゃんとバランスがおうておるかをじゃ」
「バランス?」
「そうじゃ」
何かさっぱりわからないが、彼女なりの何かがあるらしい。アレクシードは考えるのを諦めて、彼女の好きにさせてやることにした。もともと今日は、彼女のための一日なのだから。
十分納得したのだろう。「よし」と言って、ユスティニアはアレクシードの腕に自分の腕を絡めた。
「では参ろうぞ!」
街娘の格好で高貴な姫の言葉を発するユスティニアを見て、アレクシードは微笑んだ。
「御意に」
ユスティニアは嬉しそうに微笑んだ。