Page: 1/2
最近、ユスティニアには気に入らないことがある。
「この間、城内で迷っていたら親切に教えてくださって。それでもわからないって言ったら、私をそこまで送ってくださったのよ」
「あら、私なんか、落ちてしまったシーツを拾ってくださったわ」
「私たちみたいな下々の者にも、笑顔で挨拶してくださるのよねえ」
「そうそう。よく見るといい男だし」
「そうよね。噂だと怖そうなイメージだったけど、全然そうじゃないわよね」
「そうなの。剣術場でお見かけしたときなんか、きりりとしたお顔にときめいちゃったわ」
「わかるわ。あのギャップがいいのよね」
侍女たちはひそひそと話しているつもりなのだろうが、次第に声が大きくなっていることに気づいていない。そして、彼女たちの主が近くにいることにも。
ユスティニアはわざと大きな足音を立てて彼女たちの前を通り過ぎようとした。
その中の一人がユスティニアに気づき、慌てて口を閉じ、神妙に頭を下げた。それに習うように他の侍女たちも恭しく頭を垂れた。
自分よりはるかに年かさの侍女たちにかしずかれても、幼いとはいえ元は大国カストリアの出であるユスティニアは何ら動じることはない。
でも、ここ最近、侍女たちの噂話の主が自分の夫のことであると気づいてから、何となく落ち着かず、彼女たちに対して上手く接することができないでいた。
「姫様」
「な、何じゃ」
聞いていたことがばれたのかと思ったが、そうではなかった。
「アレクシード殿下がお待ちです」
「アレクが?」
「はい。応接室にお通ししております」
アレクシードの部屋には寝台のある一部屋だけだが、カストリアから嫁いで来たユスティニアには寝台のある部屋以外にも、来客を迎えるための応接室が備えられている。といっても、まだ幼いユスティニアにはその応接室を使うことは今だない。
ユスティニアは返事もそこそこに応接室へと向かった。