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愛するユティ
物資をありがとう。兵士たちの士気も上がって、今日はお祭り騒ぎだ。
それから、俺宛の衣類はユティが用意してくれたのだろうか。手紙からもあの夜の香りが微かにする。
逢いたい。必ず帰る。待っていて欲しい。
アレクシード・ディーク・アルダス
その手紙を手に、ユスティニアは自室のベッドの端に腰かけていた。
その手紙は、二月前、『アダルシャンの黒い悪魔』とも呼ばれるアダルシャンの王弟殿下でもあり彼女の夫でもあるアレクシードから届いたものだ。その前には彼女と王妃陛下で設立した支援団体『アダルシャンの風』が前線にいる彼らのもとに物資を送っていた。それが無事に届いたらしい。
「よかった」
ユスティニアは手紙を胸に抱き呟いた。
アレクシードが率いる部隊が前線に向かってからもう半年になる。すぐに帰ってこれないことはわかってはいたが、改めて過ぎた月日を数えると胸が苦しくなる。
時々、アレクシードの痕跡を探すように、彼の執務室や部屋を訪れる。最初のころは主のいない部屋であっても、どこか彼の痕跡のようなものが感じられたのだが、それもだんだんと薄れてきたように感じる。
ふいに瞳に広がる涙を、ユスティニアは一粒も零すまいと天を見上げる。泣いてしまえば、彼はきっと心配する。だから、泣けない。
戦況がどうなっているのか、ユスティニアはわからない。アダルシャン国王である陛下や上層部の人間は知っているのであろうが、ユスティニアはあえて問いただしたりしない。
だって、彼女は知っているのだ。『アダルシャンの守護神』であるアレクシードが負けることなどないことを。そして、必ず、自分のもとに帰ってきてくれることを。
= Fin =