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これはきっと何か悪い病気にかかってしまったのだと、ユスティニアは思っていた。だから、主治医に診てもらって、大嫌いな苦い薬を処方してもらって、退屈なベッドの上で横になっていれば治るだろうと安易に思っていた。まさか、医者も治せないとは思わずに。
「それでユスティニア姫。一体どのような症状なのでしょう」
カストリアからユスティニアと共にやって来たこの医者は、柔和な微笑を浮かべながらユスティニアが横たわるベッドの脇に控えていた。「失礼します」と言いながら、ユスティニアの手を取り脈を計る。
「動悸がひどいのじゃ。全力疾走したかのように胸がひどく跳ねる。それに顔が熱くなるのじゃ」
ユスティニアの言葉を聞きながら、医者は額に手を当てながら彼女の紫の瞳を覗きこむ。この世界では珍しい紫色の瞳は、彼女が大国カストリアの正統な皇女であることを示していた。
「はて。脈も熱も、今は問題ないようにお見受けしますが」
そう言いながらも、医者はもう一度確認するかのように彼女の瞳を覗きこんだ。
「今はそうかもしれぬが、昨日は違ったのじゃ」
突如として起こった経験したこともない心臓の飛び跳ね方を思い出して、ユスティニアは年頃の娘として当たり前のように膨らんだ胸を両腕で抱え込んだ。彼女にとって膨らみだした胸は、周りの人間が言うほど羨ましくもなく、むしろ邪魔でしょうがないものだった。お気に入りだった服は着れなくなるし、堅くてきつい下着をつけさせられ、走るには邪魔だし、いまだ成長中の彼女の胸は油断すると痛みを伴う。
もしかしてこの胸のせいではないかと医者に問うてみたが、思いっきり笑われてしまった。
「その痛みはそのうち治まるでしょう。それよりも、はて、原因がわかりませぬな。ユスティニア姫、その時、何かなさっておいででしたか」
「何か、とは?」
「そうですね。たとえば、ひどく冷たいものや熱いものを口にされたとか、とても怖い思いをされたとか。そう、本を読んだりなどなさいませんでしたか」
「いや。何も口にしてなどおらぬし、本なども読んではおらぬ。アレクに逢いに行こうとしていただけじゃ」
「ほう。アレクシード殿下に、ですか」
「そうじゃ」
カストリアからユスティニアと一緒にアダルシャンにやってきた従者も、最初はこの国を嫌い、アレクシードに冷たい視線を投げかけるものも多かったが、さっさと慣れてしまったユスティニアに引きずられるように、従者もいつの間にかこの国にもアレクシードにも打ち解けてしまっていた。特に医者である彼は、この国の者に何かと頼られることも多く、いち早く馴染んでしまった人間の一人だった。
「差し支えなければ、そのときのことをお聞かせ願えませんか」
「わかった」
医者は静かにユスティニアの言葉を待った。