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アレクシードは静かに顔を近づけた。ユスティニアはいつものように目を閉じ、彼の口づけをじっと待つ。
二人の間にある、悪い夢を見ないためのおまじない。ユスティニアから教えられたそれは、互いの額から唇へと、その場所を変えていた。
軽く優しい、羽毛のようなキス。
高鳴る胸に戸惑いながら交わしていた口づけが、どこかもの足りなく感じるようになってきたのはいつからだっただろう。
アレクシードは朝露に濡れた薔薇のような唇の誘惑から逃れるように目を閉じ、ユスティニアは体の奥から湧き上がりそうになる熱い思いに蓋をするように薄く開きかけた唇をきゅっと閉じた。
「それじゃ、おやすみ。ユティ」
「おやすみなさい。アレク」
互いだけに許しあった愛称を呼びあって、アレクシードはそっとユスティニアのベッドから離れた。
薄暗い灯りにユスティニアの柔らかな金の髪と白く艶のあるシーツがかけられたベッドだけが浮かび上がる。戦場で鍛え上げた精神力をもってしても、その誘惑に勝ち続けながらこの場所にいられるだけの時間は精神力を削り取るかのように日に日に少なくなっていく。
両手に拳を作り、皮膚が白くなるまで握り締め、アレクシードは後ろを振り返ることなく、足早に部屋から出て行ってしまった。
ユスティニアはベッドの上でアレクシードが逃げるように出て行った扉を見つめていた。
今は彼女も、胸の奥に芽生えていたこの気持ちの名前もその意味も知っていた。でも、どうすればよいのか、今の彼女にはわからない。
彼女の紫の瞳から涙が一筋流れ落ちた。