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「おまえってさ、何気に天然なのな」
「えっ?」
婚約者とはいえ婚姻前の女性のベッドに当然のように陣取って、リヴィウスはぼそりと呟いた。
言われたことの意味がわからず、ニケは髪を梳かしていた手を止めて振り向いた。
「天然ってなんだ?」
突然言われたことにむっとしつつ、ニケは持っていた櫛を鏡台の前に置き、彼の居座る自分のベッドへと近づいた。
ベッドのそばで仁王立ちになり、肩肘を突いて横たわる彼を見下ろしすごんで見せるが、リヴィウスは全く動じる様子もない。それがよけいにニケを腹立たせるのだが。
「急になんだ?私が何をしたっていうんだ?」
上から見下ろすニケを下から見上げ、リヴィウスははあっと一つ溜息をついた。
わかってたけど、とか、こういうやつだって知ってるから俺も、とかぶつぶつ言っているところを見ると、彼には彼なりの事情があるらしい。
”彼なりの事情”はニケには全く思いもつかないが、その様子を見て気の毒になってきた。
「あー、その、子守唄でも歌ってやろうか?」
「あ?」
リヴィウスにとっては突拍子もない提案に、彼の口からは思わず苛立ちの言葉がついて出た。
そんな彼に気づいているのかいないのか、ニケはベッドの端に座り瞳を閉じて歌い始めた。
その声は彼のざわついた心に染み込むように降り注ぐ。彼女の歌はいつだって彼に優しい。
「ちっ」
毒づきながらも彼の顔は穏やかだ。
ニケの子守唄を聞きながら、リヴィウスはいつの間にか優しい眠りに落ちていた。
= Fin =