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Cool Box  - それでも世界は美しい -

優しいキス

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By 「それでも世界は美しい」5巻 第21話 「ある決意」 After Story





「おっ、おまっ、さっき、したじゃないかっ!」
「お前聞いてなかったのか。『まずは』って言っただろ。俺は」
「うっ。確かに…」

リヴィウスの要求にニケは諦め悪く二の足を踏む。
別にしたくないわけじゃない。ただ、恥ずかしいのだ。

「で、でも!ついさっきじゃないか。そ、その、したのは」

ニケが真っ赤になりながら抗議するのは、さっきまで二人がいた王宮の図書室でのことだ。
ニケが砂の皇国に行きたいとリヴィウスに願い出、それにリヴィウスが許可を出した。あることを引き換えに。そのあることとは。

「なんだ、嫌なのか」
「い、嫌ってわけじゃないけど、でも」
「じゃあいいじゃないか。キスの一つや二つ」
「一つや二つって。おまっ!もののついでみたいに」

たかがキス。されどキス。
何度やっても恥ずかしいニケに対して、彼女よりも年下のリヴィウスの方はしれっとしたものだ。

「あのなあ。俺だってもののついでみたいに言ってるわけじゃないぞ」

そう言ってリヴィウスはニケに一歩近寄る。

「砂の皇国といえば、お前の故郷と同じくらい遠く、それ以上に広い。視察といえば日数も必要だ。一日や二日で帰ってこれるようにはいかないのはお前だってわかるだろ。その間、俺たちは離れ離れになるんだ。…淋しくはないのか、ニケ」

そう諭されてニケも押し黙る。
淋しい。一時だって離れていたくはない。けど、彼の、太陽王であるリヴィウスのそばにずっと居続けるためには、どうしても行かなければいけない。

「私だって淋しい。けど…」

それ以上言葉をつむげないニケに、リヴィウスはわかってるよという風に彼女の手を握った。

「本来ならそれ以上の要求してもいいんだけどな。けど、一応将来を認められているとはいえ、お前とはまだ婚約中だし、俺もまだ、まあ、その、あれだし」

そこで言葉を切って、リヴィウスはごほんと一つ咳をした。

「まあとにかく、この程度で満足してやるんだ。さっさとやれよ。俺も忙しいんだから」

リヴィウスはそう言って彼女からの口づけをじっと待つ。
しばらくもじもじしていたニケだが、ぐっと覚悟を決めたようにリヴィウスの方へと向き直った。
少し腰を屈めて、リヴィウスの方へと顔を近づける。互いの吐息がふわりと触れる。

やわらかく優しい、ただ重ね合わせるだけのキス。
ほんの僅かに唇を重ね合わせた後、二人は目を見合わせて微笑みあう。

このときはまだこの後にどんなことが待ち受けているのか、二入は知る由もなかった。





= Fin =



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