Page: 1/2
大学の就職課の前に張り出されているアルバイトの張り紙の前に幾人かの学生がたむろっていた。春も過ぎようとしているこの時期、いいバイト先などすでにないに等しかった。それでもよい仕事はないかと学生たちは訪れ、溜息をつきながら去っていく。その中で一人の学生が熱心に張り出されている求人を見つめていた。
着古したジーンズに同じくらい着古したトレーナー。眼鏡をかけ、髪は伸びきったぼさぼさの髪を少し派手目のヘアバンドで持ち上げている。お世辞にもおしゃれとは言えない彼のそれだけがおしゃれな部分なのかもしれなかった。
「なんだ、佐々木。いいのでも見つかったのか?」
佐々木と呼ばれた男は呼びかけた相手に振り返ることもなく、ひたすら熱心に壁に貼られた求人の紙を見続けていた。そして、おもむろにジーンズのポケットから携帯電話を取り出すと張り紙を見ながらボタンを押し出した。
返事を返されることもないと悟った相手は諦め顔で溜息をつきつつ別の求人の張り紙を見始めた。
「私、佐々木と言います。求人の張り紙を見てお電話したのですが。…あ、はい。そうです。…ええ。…そうですね。では、明日。はい、その時間にお伺いします。よろしくお願いします」
佐々木と呼ばれた男は、先ほど問い合わせた求人の張り紙を破り取り、小さく折りたたむと携帯と一緒にジーンズのポケットに納めてその場を立ち去った。