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誰だってそんなことが自分の身に起きるなど、想像したこともないはずだ。 だから杏子もそんな時間に帰宅することに多少の不安を覚えながらも、駅から自宅までの夜道を何一つの対策も講じずに歩いていた。それを誰が責めることができよう。いや、責めるものがありさえすれば、まだ気持ちが楽だったかもしれない。 ともかく、杏子は呆れるほど無防備で、馬鹿にしたくなるほど楽観的だった。