Page: 1/3
突然、どこかからカタカタと小さな物音が聞こえてきた。
「何の音でしょうね」
手にしていた湯飲みをテーブルに置き、鈴木は音のする方へと近づいた。
その音は棚に並べられた数ある小瓶の一つが小刻みに揺れていたために聞こえてきたものだった。
「どした、鈴木」
蛇の佐藤が小さな湯飲みから顔を上げて鈴木に声を掛けた。
「いえ。この小瓶が揺れているものですから」
そう言って鈴木が瓶を手に取った瞬間、パリンッと甲高い音を立てて瓶が割れた。
まるで内側から強い圧力がかかったように、鈴木の手の周りへと細かく砕けた破片がキラキラと散っていった。それまで中で揺れていた液体は、空気に触れると溶けるように霧散した。
「な、なんだっ!おい、鈴木!大丈夫か?」
「ええ。私は何ともありませんが」
そう言いながら鈴木はしゃがみ込み、床に散らばっていた欠片の一つを手に取った。
「それ、もしかして、あいつのか」
どちらかというと人懐っこい佐藤が、対象人物の名前も呼ばず『あいつ』呼ばわりし、さらにその部分を嫌そうに口にした。
鈴木はそんな佐藤の様子に苦笑いしながら「ええ」と答えた。
「そのようですね。どうやらこれは佐伯さんのものですね」
「割れるなんて何があったんだ?まあ、あいつのことはどうでもいいんだけどよ」
「どうでもいいなんて、言いすぎですよ」
鈴木が嗜めると、佐藤は「だってよぉ」と言いながら近づき、鈴木の手元を覗き込んだ。
「それにしても、派手に割れたな。こんなこと、よくあるのか?」
「いえ。そうあることではないのですが」
鈴木は胸ポケットから真っ白いハンカチを取り出し、その中に瓶の欠片を一つ残らず集めて入れた。
「どうすんだ、それ?」
ハンカチの中を覗きこみながら、佐藤は尋ねた。
「本来ならば修復して元に戻すべきなのでしょうが」
鈴木は欠片を一つ、目の前にかざした。
「どうやら彼はそれを望んでいないようですね」
そう言って、鈴木は欠片をハンカチの中へ戻した。