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あいつには婚約という契約で縛られて搾取された。王太子妃教育はあの馬鹿の穴埋めのように内容が増えるばかり。その他にも、まだ婚約等状況にもかかわらず、王族の執務の一端も担わされていた。そんな忙しい私を尻目に、女のケツばかり追いかけるあいつは馬鹿以外の何物でもない。国を背負う器もない馬鹿王子。
あの男にはありもしない罪をこれでもかというほど被せられた。馬鹿王子が王太子に、のちには王になった暁には宰相となるのだと、憚りもなく公言していたチビ眼鏡。私より小さい癖に踵の高い靴を履いて見下して喋る。ついでに言うと、成績は私よりも下だ。プライドだけの宰相気取り。
あの男には胸を刺された。直接の死因だ。痛いというより悔しかった。心臓を刺されたせいなのか、喉にせりあがってきた血の味と感触を忘れることはできない。命令だけを忠実に実行し、自分で考えることをしない愚かな騎士見習い。
馬鹿王子の親も大概だった。目が腐っているのかと思った。いや、腐っているのだろう。あの馬鹿王子を猫かわいがりするだけで、政策のせのことも理解できてない国の頂点。いや、頂点じゃないか。一番底辺にいる下等生物。
娘が王太子妃となる未来だけを夢見て、自身の娘のことを何一つ見ていない親も大概だった。いや、そんなものかもしれない。わからない。物心つく頃には親元から引き離され、王太子妃教育の名のもとに王城に住まわされていたから。顔も良く知らない生んだだけの両親。
王子に纏わりつく羽虫のような女たちには色々と迷惑を被った。身の回りの品物や洋服だけに飽き足らず、飲食物にも色々と仕掛けられていた。王城なのに。あの馬鹿王子、侍女にも手を出していたんだろうな。おかげで王城に住んでいるはずなのに、城下の浮浪者よりもひどい状態だった。うるさくてうっとうしい羽虫女たち。
他にも邪魔なものはいた気がするが、どうせ十把一絡げだ。一つでも二つでも、十でも百でも万でも億でも、私にとっては唯一つの不必要な「もの」だ。
だから、今目の前で起きていることだって、どうでもいい。
「もうお前以外によそ見はしない!俺の愛を生涯捧げる!」
「貴女の才能に平伏いたします!どうか下僕としてお使いください!」
「俺の剣は貴女に捧げる!剣士としての誓いを授けてほしい!」
「そなたが我が息子とこの国を治めるのを楽しみにしておるのだ!」
「王妃としての知識を貴方に授けます!どうか息子を支えてあげて!」
「なんと立派になって!そなたの父として誇らしいぞ!」
「ずっと貴女のことを忘れたことはなかったわ!ああ、素敵になったわね!」
「王太子妃となる貴女様のお傍に使えさせてくださいませ!」
「いえ、私が!」
「それは私の役目よ!」
私は隣にいるこの世界の神とやらを見上げた。
「で?」
『いや、で?と言われましても…』
私は一度こいつらに殺された。そう、私は死んだのだ。
それをこの、神とやらが、私を生き返らせた。勝手に。
神とやらが言うには、私が死ぬと世界が亡びるらしい。だから、私を生き返らせると同時に、これらにこんこんと言い聞かせたらしい。それが、今、ここ。
「で?」
私の純粋な気持ちだ。
神とやらは顔を赤くしたり青くしたりしている。神とやららしいのに。
『貴女が彼らと手を取り合って国を導いてくれれば、この世界はもう百年、続くことができるのです!」
神とやらは誇らしげに、鼻の穴を大きく広げて言う。
「そう。で?」
『いや、ですから、貴女が慈悲をもって彼らを許し、智賢をもって導いてくだされば、この世界はもう百年は軽く続くのですよ』
「へえ。それ、私に利点ある?」
私がそう言うと、神とやらは呆けた顔をした。
「これ見て?刺された直後に生き返らせたもんだから、ドレスが血まみれなんだけど。っていうか、私、死ぬ時までの経緯も、心身の痛みも辛さも、全部覚えているのよ。それでよく、そんなこと言えるわね」
『で、ですから、貴女がこの国を導けば』
「そういうの、自分でやってくださらない?勝手に私を生き返らせることができるんですから」
『え?』
「勝手に生き返らせたんですから、お礼は言いませんわよ。それじゃあ、後はご勝手に」
手をひらひらと後ろ手に振って、瞬間移動の魔法で『別の世界』に飛ぶ。
『お疲れ様。面倒ごとを押し付けてすまなかったね』
「ほんとにね。で、しばらくは静かに過ごさせてもらえるんでしょうね」
目の前に佇む、この世のものとも思えない美しさを持った人ならざる者をちらりと見やる。
『もちろんだよ。あの世界の崩壊まではゆっくりしておいで。次の世界の核ができたら、君には頑張ってもらわないといけないしね』
綺麗な顔でウインクをしてくるこいつは、驚くほど胡散臭い。これが創造神だと誰が思うだろう。
『あれも最初は上手くやってたんだけどね。う~ん、僕の目が悪くなったのかな?』
そうだと言ってやりたかったが、こいつには何を言っても刺さらないだろう。私は長い息を吐いた。
「で、あれはどうするの?」
部屋の真ん中には大きな丸い球体が幾つか浮かんでいる。その一つが先程までいたあの世界だ。
『崩壊まで何もしないよ。あれもどうもできないだろうしね』
あれというのは、先程の世界の神とやらのことだ。あれは失敗したのだ。小さな一つの世界の継続に。
「そう」
『失敗作はいらない。さて、君は少し休んでおいで。君好みの世界を用意しておいたよ』
「ありがと。休ませてもらうわ」
『うん。僕が作った完璧な世界だから、君は堪能するだけでいいよ。次の世界の構想でも練っておくといい』
簡単に言って、こいつは壊れかけの世界を突き始める。私のことなど、もう忘れているのだろう。
私は次の世界に思いを馳せながら、死に戻すのだけはやめようと心に誓った。
= Fin =