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「どうしたもんかのう」
シャーフーは途方にくれていた。
一人の少年を連れて帰ったが、その少年は何を聞いても一言も発しないのだ。
無理もない。あれだけのことがあったのだから。
不穏な気配を感じて向かった先に広がる、この世のものとは思えぬ惨劇。少年はその中で激しい雨に打たれながら立ち尽くしていた。その惨状には不似合いなほど強い瞳で前を見据えたまま。
とりあえず警察に届けては見たものの、解決はしないだろう。明らかに人の手によってなされたものではないことは明らかだ。
それは、残された気配でわかる。
だが、何ものの気配なのか、激獣拳でマスターと呼ばれるシャーフーでさえもそれはわからなかった。
ずぶ濡れの少年をミシェル・ペングに手伝ってもらいながら何とか着替えさせては見たものの、こういう状態の少年をどう扱えばいいのか手を拱いていた。
「理央、といったかのう」
そばに落ちていた荷物から、少年の名前だけはわかっていた。
「今は何を言っても無駄じゃと思うが、お前さんは生きておる。いや、生きなければならん。お前さんの身内に連絡がつくまでは、わしと一緒にここで寝泊りしてもらうぞ。よいな」
返事をしないのはわかっていたが、それでもシャーフーは問いかけた。
この時点のシャーフーの予測は、後で大きく外れることになる。いくら待っても身内が見つからなかったのだ。
そう。少年・理央は天涯孤独になっていたのだった。