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「休憩するか、理央」
「そうだな。喉渇いたろ。先に飲めよ、ゴウ」
「わるいな」
木枯らしの吹き始めたある日、二人は練習場を出て外で稽古をしていた。激獣拳の練習生の中でも、この二人の才能は群を抜いていた。
「それにしても、なかなかダンさんには追いつけないな」
「そうだな。でも、俺はいつかダンさんのライバルになるんだ」
「おいおい、理央。お前のライバルは俺だろ」
「何を言うんだよ。ゴウは友達だろ」
そう言われたゴウの心中は複雑だった。
が、その時、あることに気がついた。
「理央、お前、マッチ持ってたか?」
「いいや。持ってない」
「どうやって火を起こしたんだ?」
話している間に、理央は近くの枯れ枝や枯れ葉を集めて火を起こしていた。
「ん?これでさ」
理央がゴウに見せたものは、石と一本の棒切れだった。
「え?これで?どうやって?」
「なんだ、知らないのか。こうやるんだよ」
理央は石の上に揉みしだいた枯れ葉を乗せ、その上に立てた棒を両手でくるくると回しだした。そうすると次第に煙が立ち始め、小さな炎が灯った。
「すごいな、理央。どうしてそんなこと知ってるんだ?」
聞かれた途端、理央は唇を噛み締め厳しい顔つきになった。その表情を見て、ゴウは慌てて理央の側にしゃがみこんだ。
「いや、いいんだよ。すごいな。うん」
すごい、すごいと連呼してどうにかしてこの場を納めようとしたゴウだったが、こんな理央を見ながらどうすることもできなかった。
「…父さんが、教えてくれたんだ…」
消え入るような声でぽつりと理央が呟いた。
ゴウが理央を見ると、時折り見せる懐かしむような、愛おしむような、苦しいような、切ないような、そんな横顔をしていた。
「いい、親父さんだったんだな」
「…うん」
木枯らしが一筋、二人の間を吹きぬけていった。
= Fin =