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「あれ?マスター・ピョン・ピョウ。お出かけですか?」
「やあ、レツ。そろそろケニアに帰ろうと思ってね」
ピョン・ピョウは大き目のリュックサックに荷物を詰めながら答えた。
「確か、国立公園でお仕事なさってるんでしたっけ」
「そう。密猟者を取り締まってるんだ。最近また増えてきたらしくってね。連絡が入ったんだ」
「みつりょうしゃ?」
どこからかジャンがやってきて会話に加わってきた。
「なんだ、それ?食えるのか?」
「食べ物じゃないよ、ジャン」
「なんだ。食えないのか」
がっかりしてうなだれるジャンに、ピョン・ピョウが笑いながら彼の肩を叩いた。
「噛み付いてやりたいくらいだけどな。密猟者という奴らは生きている動物たちをむやみに殺して、己のためだけに皮を剥いだり、角や牙を取ったりするんだ」
「悪いやつなんだな!」
「まあ、そうなんだけどな。彼らは生活のためにやってるんだ。本当に悪いのは、必要以上に物を欲しがる裕福な人間たちだよ」
「うがーっ!そんなの、俺、許せない!俺も手伝う!」
ジャンは飛び跳ねながらピョン・ピョウの周りをぐるぐる回った。
そんなジャンを見ながら、ピョン・ピョウは彼の頭を優しく叩いた。
「ハハハ。ジャン、君の気持ちだけ頂くよ」
「なんでだ!?俺もそいつらをガキガキのバキバキにするんだ!」
「君には無理だよ、ジャン。確かに君は強くなったけど、君じゃあ安全に彼らを捕まえられないさ」
レツは話を聞きながら、そういえばピョン・ピョウが密猟者をどんな風に捕らえているのか聞いた覚えがなかったことに気づいた。
「マスター・ピョン・ピョウ。どうやって密猟者を捕まえるんですか?」
ピョン・ピョウはリュックサックを肩にかけながらレツの方に振り向いた。
「レツ、この姿は密猟者の目にはどう映ると思う?」
レツは両手を広げて立っているピョン・ピョウを、改めて上から下まで眺めた。
「ガゼル、ですね」
「パンダじゃないぞ。俺のいたところにはいなかった仲間だ!」
「ジャン、うるさい!」
レツは会話に割り込んできたジャンの口を強引に塞いだ。そんな二人を見て、ピョン・ピョウは声を立てて笑った。
「そう。僕のこの姿はガゼルだ。この姿で彼らの前に現れたとすると、どうなると思う?」
レツはジャンの口を塞いだまま考え込んだ。
広い草原。たくさんの動物たち。彼らを狙う密猟者。そこに現れるガゼルの姿をしたピョン・ピョウ。
「もしかして、囮…?」
レツの言葉に、ピョン・ピョウは満足そうに頷いた。
「そうさ。この姿は囮になるんだ。よって、この仕事は僕にしか出来ないのさ」
そう言って、ピョン・ピョウはリュックサックを担いで軽やかに扉を出て行った。
その後姿を見送って、レツはぽつりと呟いた。
「なんか、それ、汚いよな…」
= Fin =