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そのポートレートに写るのは、今はお目にかかること自体が奇跡に近いあの人の笑顔だ。
それを持つ両手に力が入っていることに、メレは気がついていなかった。
「その理央、可愛いでしょ」
可愛いですって!?よくも理央様に向かってそんな言葉を!
メレが目を吊り上げて声のしたほうを睨みつけると、そこにはそのポートレートの女によく似た女が立っていた。
この女、確か、スクラッチの…。
メレの視線を意に介さず、スクラッチの特別開発室室長・真咲美希はメレの手からひょいとポートレートを取り上げた。
「理央とゴウと私と。この頃は理央もよく笑顔を見せていたわ。今の理央からじゃ、とても信じられないでしょうけど」
そう言って美希はメレの手にポートレートを返した。
確かにメレの知る理央は、いつもどこか飢えていて、何かに苦しんでいた。メレの手に再び力が込められた。
「理央の相手になれるのがゴウか私だけだったから、よく三人で修行したわ。おかげで嫉妬の嵐だったけど」
美希は昔を思い出してカラカラと笑った。
それとは逆に、メレは美希の言葉にピクリと反応し、「嫉妬…?」と小さく呟いた。
「ええ。あの容姿でしょ。それはそれは妬まれたわ。他の女性たちに。いくら関係ないって言っても信じてもらえないし」
「あの、あなたは、理央様とは」
「たんなる獣拳を学ぶ仲間よ。それ以上でも以下でもないわ。それに、理央には、はっきり聞いたわけじゃないけど、気になる誰かがいたみたいだし」
「気になる、誰か?」
「ええ。よく写真を見ていたみたいよ。そういえば、ちょっとあなたに…。あ、ちょっと!」
メレはすでに駆け出していた。
「ま、いっか。あれが誰かなんて、今の理央にはどうでもいいでしょうし」
美希はメレが机の上に置いていったポートレートに微笑んだ。