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「えっ!?ジャンが帰ってきてるの?」
学校帰りにスクラッチの練習場によったら、練習生のみんながその話題で興奮していた。
「さっき、マスター・レツにお会いしたときそう言ってました。今、そこで会ったって」
「私もマスター・ランにお聞きしました。報告に行くとか言ってて…」
みんなの話もそこそこに、私は練習場を飛び出した。
ジャンが、ジャンが帰ってきた!!!
最後に逢ったのはいつだったろう。またどこかへ行くってママから聞いて、あわてて逢いに行って、でも、逢えなかった。その前の日に練習場でみんなに稽古をつけてくれて、そのときに少し話しただけ。あれが、最後。確か、去年の春。
あのあと、私は高校に入学した。そして、もう2年になる。
ジャンはわかっているのだろうか。私はもう、最初に会ったときのような子どもじゃないってことを。
「ママっ!ジャンが帰ってきてるって本当!?」
私のママ、真咲美希・スクラッチ特別開発室室長がいる部屋に駆け込んだ。
「なつめ!ここではママじゃないっていったでしょ!いったいあなたは何度言ったら…」
ママの声なんて私の耳には入ってきていなかった。
ママの机の前に立つ、背の高い赤いジャケットの人。あれは。
「おぅ、なつめ!元気だったか?」
ジャン!!!
振り向いて人懐っこい笑顔を向けた人。
いつだって元気で明るくて、真っ直ぐで、そして、強い人。
憧れて、追いつきたくて、追いかけて、恋しくて、愛しくて。
言葉が出ない私に、ジャンはいぶかしげな顔をして近づいてきた。
「なつめ、どうかしたのか?腹でも痛いのか?」
ジャンのバカ!どうしてお腹が痛くなんてなるのよ!
そう言いたいけれど、その言葉も出ない私。
どうして、何も言えないんだろう。言いたいことは山ほどあるはずなのに。今度逢ったらっていつも考えてて、何度も頭の中で思い描いてて、そして今、目の前がそれなのに。
「そうか、あれだ。ちょっと待ってろよ」
ぐるぐるしてる私をほったらかして、ジャンは足元に置いてあったリュックをごそごそと探り出した。
「あったあった!」
何かを探り当てたジャンは、それを取り出し、得意げな顔で私の前に差し出した。
「なつめにお土産だ」
お土産?ジャンが?私に?
今まで一度だってそんなことしてくれたことないのに、どうして?
「ほら」
何の反応も見せない私に痺れを切らしたのか、ジャンは私の手を取り、そのお土産を握らせた。
不意に触れられた手の温もりを意識しつつ、手を開くと。
石?
「な、きれいだろ!キラキラ光ってるし。他にもいっぱいあったんだ。えーと、これは美希にだろ、これはネコ!あとはランとレツとゴウとケンと、それから…」
ジャンはみんなの名前を次々と挙げながら、リュックの中から同じような石を取り出し机の上に並べていった。
ただの石を?
みんなに?
私だけじゃなくて?
悔しくて、辛くて、悲しくて。
「いらないっ!」
そう言って、私は部屋を飛び出した。