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「うふふふふ~♪き・れ・い・に、膨らんだぁ~♪」
今日はいつものちょっとセクシーな緑の服ではなく、今日と言う日に相応しい可愛らしいサンタガールの衣装のメレは、鼻歌を歌いながらケーキを作っていた。
つい先ほどスポンジが焼きあがり、その出来が思った以上によかったらしい。傍目に見てもご機嫌な様子で、スポンジを両手に掲げてくるくる踊っていた。
「さあ~てっと。次は、デコレーションよね。ん~っと、理央様はいつも黒い服装だから、ケーキも黒くチョコレートって感じなんだし、それに、臨獣殿のイメージからも黒って感じなんだけどお」
メレはテーブルの上を見た。すでに湯せんの済んだチョコレートがボールの中で甘い香りをさせている。後はこれを出来上がったスポンジに塗って、デコレーションすれば出来上がりだ。
なのに、今も迷っていた。
理央のイメージからも、臨獣殿のイメージからも、どう考えたって黒=チョコレートがいいに決まっている。それなのに、どうしてか、真っ白なホイップクリームで塗って赤い苺をたくさん飾ったケーキにしたくてしょうがない。白に赤なんて、どう考えてもイメージじゃないのに。
「どうしよう」
どうしようじゃないのだ。理央を思って作るなら白じゃなくて黒でないといけないのだ。
悩んで、悩んで、悩んで、メレは運を天に任せることにした。
「ちょっと、リンシー。来なっ」
びくりとしてしまうほど低い声で呼ぶと、どこからかリンシーがわらわらとやって来た。
「あんた、これつけて。あんたはこれ。あ、そこのあんた。丸椅子を一つ持ってきて」
メレの命令を忠実に聞きながらリンシーは素早く動いた。
メレの目の前には「しろ」と書かれた紙を胸に貼ったリンシーと、「くろ」と書かれた紙を貼ったリンシー、それに、丸椅子を一つ持ったリンシーが集まった。
「あんた、その椅子、空いているところの中央に置いてきて。”しろ”と”くろ”は椅子から1mほど離れて立てって」
リンシーは素直にメレの命令を聞いた。
「それと、誰かCDプレーヤーと理央様の美声の入ったCDを持ってきて!」
リンシーは深く考えない。言われたままに行動する。こういうときのメレの考えなんて、どうせ誰にもわからないからだ。…なんてこと、当の本人には言えないが。
そんなものどこから、と思わないでもないが、リンシーはメレの言うとおりのものを素早く用意してきた。
「あら、意外と早いじゃない。それじゃ、”しろ”と”くろ”。今から理央様の素敵な歌声を聞かせてあげるから、歌が聞こえてくる間は椅子の周りをぐるぐると回って、歌が止まってしまったら椅子に座るのよ。ただし!椅子に座れるのは一人だけ。早い者勝ちだから。よろしくね」
メレの命令に”しろ”と”くろ”が抗議の声を上げた。どうやら勝ったほうに何かの得点をつけて欲しいらしい。メレは「面倒くさいわね」と言いながらも、何か考え出した。
「じゃあ、”しろ”が勝ったらこのチョコレートを、”くろ”が勝ったらこのクリームをあげるわ。どうせ使わないし。どう、これでいいわよね?」
メレの提案に”しろ”と”くろ”は両手を上げて喜んで見せた。
それに抗議の声を上げたのは、椅子を運んだりCDを探して持ってきたりした他のリンシーたちだ。
「あー!わかったわよっ!練習用のこのスポンジ、全部あんたたちにあげるわよ。それでいいでしょ」
この提案に残りのリンシーたちも含めて、集まったリンシー全員が両手を上げて喜んだ。…リンシーとしてそれでいいのか、と思わないでもないが、ま、この日だからよしとしよう。
とにかく、結局メレがやろうとしているのは『椅子取りゲーム』である。それにしても、選曲があれとは…。さすが「理央の愛のために生き、愛のために戦う」だけあるというか。