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「はあぁ~」
メレは女性誌に特集されていた南の島の写真を見ながら盛大な溜息をついた。
見たこともないような青さの海と空には境界線が見当たらない。青さとは対照的な白さの砂浜には、水着姿の男女が寄り添うようにしてカメラに背を向けて座っていた。
別に海に行きたいわけでも、水着になりたいわけでもない。ただ、この写真のように愛する理央と寄り添い合ってみたいだけなのだ。
「はぁ~。こんなのムリ、ムリ」
見れば余計に虚しくなるだけ、とばかりに、メレは勢いよく本を後ろに放り投げた。
「何が無理なんだ」
背後から聞こえたその声に、メレの体がびくんと跳ねた。
恐る恐る振り返ると、先程投げた女性誌を手にした理央が立っていた。
「り、理央様っ」
「何が無理なんだ。メレ」
女性誌をメレに手渡しながら理央が尋ねた。
「いえ、何でも」
この写真のように寄り添い合ってみたいとは恥ずかしくて口が裂けても言えないメレは、何でもないとしか言いようがなかった。
「言ってみろ」
そう理央に言われて、メレに拒否権はない。
「海に行きたいなと、思ったんです。写真の」
返された女性誌を握り締め、うつむいたままメレは答えを返した。
その返事を聞いた理央は、なぜか「どの写真だ」とメレに尋ねてきた。
真意がわからず、それでも理央の質問に答えるため、メレは先程まで開いていたページを探し出し、それを理央の前に広げて見せた。
「ここ、です」
指し示したものの、場所がどこだったかなんてメレは見てもいない。メレにとって重要なのは「理央」と「どうしているか」だ。
示されたページを理央は無言で見つめている。その横顔を見ながら、メレはこんなものを見ていた先程までの自分を呪った。
「行くぞ」
突然言われた言葉の意味が、メレには理解できなかった。
「どこへ」
いつもなら聞きもしない問いを、思わず理央に投げかけてしまっていた。
「そこだ」
理央が簡潔な答えとともに顎をしゃくって示したのは、メレが開いて見せた女性誌のあのページだった。
「えっ、あの。理央様っ!?」
スタスタと歩いていく理央の後姿を追いかけながら、メレは戸惑いと喜びの中にいた。
= Fin =