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「何をしている」
部屋に入った直後、彼はひどく静かな声でそう言った。
声をかけた先は、彼の部屋の奥、寝台が一つあった。簡素な寝台には枕が一つと不自然に膨らんだシーツが薄暗い部屋の中でぼうっと白く浮かんでいた。
彼の声を受けて、シーツがもぞもぞとうごめいた。
「何をしていると言っている」
彼の声が僅かに怒気を含む。
それを感じてか、その膨らみがびくりと震えた。
彼が微動だにせずにいると、シーツがふわりとめくれ上がった。
「理央。私をあなたの好きにして欲しいの」
忽然と現れた女は、衣服を何も身につけず、秘部を自身の腕で僅かに隠しただけで理央の前に立った。
そして、その腕を広げてしっかりと理央に巻きつけた。
「お願い」
女は自らが作ったシチュエーションに酔ったように、理央の耳へと切なげな吐息を落とす。暗くてよく見えないが、顔も体も、熟したように染まっているのだろう。
普通の男なら、その誘惑にぽとりと落ちていくだけだ。
でも、理央は落ちなかった。
「帰れ」
女を体に巻きつけたままで、理央はそう言った。
「ねえ。好きにしていいのよ。ここで一番の美貌を持つ私に誘われて、本当は我慢できないでしょ」
女は蛇のように手足を理央の体に巻きつけた。白い乳房が理央の胸に押し付けられ、無様に歪んだ。
「聞こえないのか。帰れと言ったんだ」
青白い煙が理央の体から立ち昇り、次の瞬間、女の体が強い力で弾き飛ばされた。
壁に叩きつけられるその瞬間、女はくるりと体をひねり、突如掛けられた体への負荷を受け流して、その場に構えた。
「どうして!?誰だって私を好きにしたいはずよ!ねえ、理央。あなただってそうでしょう!」
女が理央に近寄ろうと右足を前に出した。その足が床に触れた途端、つま先ギリギリに、激しい一撃が突き刺さった。理央の手から放たれた激だった。
「次は心臓を狙う」
理央の手は女の持つ豊満な乳房を指した。
「な、何よ!後悔すればいいんだわ!」
本気の理央を感じ取ってか、女は自らの体を隠すことなくその場から逃げ去った。