Page: 1/1
|
「あの、理央様」
戸惑いながら問いかけるメレに、理央はその口を指でそっと塞いだ。
「メレ。お前はいつになれば『様』をやめるんだ?」
そう言われて咄嗟に「すいません」と言いながら頭を下げようとするメレに、理央は彼女にぐぐっと詰め寄った。
「謝るのもなしだと、俺は言わなかったか?」
息がかかるほどの至近距離でそう言われて、メレは顔をこれ以上もないほど赤らめながら、再び口から零れそうになる謝罪の言葉をごくりと飲み込んだ。
「まだ、俺が信じられないか?」
そう問いかけた理央の顔は、どこまでも真剣で、僅かな不安が瞳の奥に見えた。
それに気づいた途端、メレは思わず「いいえ」と口にしていた。
「信じております。ただ…」
「ただ?」
「信じれないのは、私自身、なんだと思います」
「?」
「本当の私を知ってしまったら、きっと、きっと!」
理央を見上げるメレの瞳が不安に揺れる。
彼女の闇は深い。それに理央は気づいていた。
理央はメレを見つめ、しっかりと己の腕に抱きしめた。彼女がこれ以上、不安に揺れて闇の奥へと落ちてしまわないように。
「メレ」
「はい」
「俺を信じるお前を信じろ」
「えっ?」
「お前がお前自身を信じれないのなら、そんなお前が俺だけを信じれるというなら、俺を信じるお前を信じればいい。俺は、お前を裏切らない」
「理央様…」
「『様』はいらないと、俺は言わなかったか」
からかうようにそう言って彼女の顎を取り上を向かせる。
理央の強い言葉と熱い腕に、メレの瞳の中で揺れていた不安が少しずつ凪いでいく。
「信じます。理央、を信じる私を」
少し恥ずかしそうに、だがしかし、しっかりと彼の名を呼ぶメレの瞳は、目の前の理央を映していた。
「信じろ。俺を」
そう言って、理央はメレに口づけた。
= Fin =