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「納得いかないわ」
スクラッチ社特別開発室室長・真咲美希は誰に言うともなく呟いた。
獣拳を学んだ自分は、普通の女性とは違う部分もあるが、今の夫と出会い、結婚し、可愛い娘を授かったことは、女性として恵まれたことだと知っている。そして、誇るべき幸せなことであることも。
でも、今、この目の前の光景には納得いかない。それは、女性としては当たり前であろう。
大きな広いデスクの上に飾ってある、普段はあまり見ることのない写真に目をやる。
若かりし頃、獣拳を学んでいた頃の同期の写真だ。
その中には、ゴウと、そして理央の姿もある。そして、目の前の彼らは、写真の中と変わることない同じ姿なのだ。
「やっぱり納得いかない」
もう一度そう言って写真に手を伸ばそうとしたら、先にもふもふの手に写真を取られてしまった。
「シャーフー!」
「どうした?浮かない顔じゃの」
フォッフォッと笑いながら、シャーフーは写真を眺めた。
「修行時代のお主たちじゃの。若いのぉ」
「ええ。まあ」
「どうした?いつものお主らしくもない。歯切れが悪いの」
所詮シャーフーも男性だ。女性の美希の気持ちはわからないものかもしれない。
「それは、当然だと思いますけど」
「ほう?」
「久しぶりに会った彼らは、昔と何一つ変わらないんですもの」
「そうかの?」
「ええ。この写真と同じ。皺も肌のくすみもない、若いままの姿なんですもの」
そう言われて、シャーフーはもう一度、写真を見つめた。
「確かにそうかもしれんが。だがのう、美希」
「なんですか、シャーフー」
「お主は今の自分が嫌いか?」
毛むくじゃらの顔の、普段は細く山形になって笑みを湛えた瞳が鋭く光る。
その瞳を真正面から捉え、美希はくすりと笑った。
「いいえ。好きですわ。羨ましいのは、変わらない彼らの若い肌だけ」
シャーフーから写真を奪い、美希は写真の中のゴウと理央にでこぴんをかました。
「それにしても、シャーフー。ゴウの若さはわかりますが、理央はどうしてあのままの姿なんですの?」
不完全な獣獣全身変により年を取らなかったゴウのことは説明がつくが、理央の姿が若いまま変化がないことについては、一切の理由が見当たらない。
「ふむ。それについては考えてみたんじゃがの」
「なんですか」
「臨気のせいではないかと思っておる」
「臨気、の?」
「そうじゃ」
「禁断のゲキ技『獣獣全身変』を使った儂らのように、臨気にも年を取らないような何かがあるのではないかと思うておるのじゃよ」
「臨気に、ですか?」
「うぬ。理央は唯一人、臨気を使うものの中で生者じゃからのう。それしか説明がつくまい」
「そんなことが、臨気に、ですか?」
「多分の。お、おいっ!美希!どうしたんじゃ」
シャーフーの制止も聞かず、美希は厳しい形相で、ジャンに纏わりつかれている理央に近づいた。
その様子に、メレが構えを取るが、それには目もくれず、美希は理央に近づいていった。