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暗い闇から救い出し、温もりまで与えてもらった手を胸に抱きしめたまま、メレは理央の背を見つめた。
「あの…」
「なんだ」
先に立って歩き出そうとする理央に、彼女はおずおずと問うた。
理央は振り返ることもせず、彼女の言葉を促した。
「その、何てお呼びすればよいのかと」
「?」
「あの、貴方様のことは、どうお呼びすれば…」
メレは暗い闇の中に閉じ込められてしまう前の記憶を思い返した。
しかし、そのどこにも、この青年の姿はない。
それもそのはず。
理央は、メレが激臨の大乱の反乱者として葬り去られた後に生を受けた者だからだ。
「別に、なんでもよい」
「しかし、そういうわけにはっ」
食い下がるメレに、理央は振り向いて答えた。
「ならば、我が名を呼べ」
「…貴方様の、お名前は」
「我が名は、黒獅子、理央」
「理央、様…」
宝物を貰ったかのように、メレはその名を呟き、心に刻み付けた。
「お主は」
「はい」
「名は、何という」
メレは彼の前に跪き、恭しく頭を垂れた。
「メレと、申します」
「そうか」
理央の脳裏に、一瞬、あの写真の淋しげな表情の女性が浮かんだ。
しかし…
俺にはやらねばならないことがある。
理央は、唇を強く引き結び、前を向いた。
「行くぞ」
一歩を踏み出す。
彼は、もう、戻れない。
「はい。理央様」
メレが力強く答える。
真っ直ぐ前を向き歩く理央の後に、甦ったばかりのメレがついて行った。
= Fin =