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ここは、どこだ。
目を開けたつもりだった。しかし、見えるのは闇ばかり。
まだ目を閉じているのかとまばたきをしてみたが、やはり闇しか見えなかった。
この闇を、俺は、知ってる。
それまでは幸せだったのだ。闇なんてあることすら知らなかった。
だが、しかし。
それは突然襲ってきた。何の前触れもなく。
いや。突然ではなかったのかもしれない。用意周到に緻密な計算によって練り上げられた計画。そして、その先に続く、漆黒の闇。
俺は、知っている。
途端に激しい感情が体を襲う。
絶望。孤独。憤怒。
誰だ!誰がこんなことをした!俺が強ければ!俺が!俺が誰よりも強ければ!
細胞の一つ一つがごぼごぼと音を立てて沸騰する。力を求めて。何者にも屈しない力を!
『理央様』
頭の中に静かに響き渡る声と、手に触れる暖かさに、理央は覚えがあった。
「メレ」
闇の中に向かって、かの人の名前を呼ぶ。
何があろうとも自分を信じ、真っ直ぐな瞳で見つめ続けてくれていた人。
「メレはお側におります」
いくら目を凝らしてもその姿は確認できなかったが、手に触れるぬくもりがそれを証明していた。
「ここはどこだ」
「私にもわかりません。わかるのは、肉体が滅びてしまったことと、理央様とご一緒だということだけで」
肉体が滅びる。
その言葉で理央はすべてを思い出した。
力を求め臨獣殿を己が手で再興し滅したこと。獣拳を一つに戻すために、拳断を行ったこと。そして、ゲキレンジャー達にすべてを託し、メレの後を追ったこと。
卑怯だった、と思う。
何もかもを任せてしまい、自分は逃げたのだ。だが、あの時の自分にあれ以上どうできたというのだろう。すべてが仕組まれていたとはいえ、自分は多くのものを傷つけた。自分のせいで亡くなってしまった家族。孤独な自分を暖かく導いてくれたマスター・シャーフーやダン、ゴウ達、激獣拳の人間。自分の勝手な欲望で蘇らせてしまった三拳魔、臨獣拳の拳士達。そして、絶望の闇に二度も陥れてしまった、メレ。
「私、こうなったこと、後悔していません」
まるで理央の思考を読み取ったかのようにメレが呟いた。
「だって、理央様と気持ちも通じ合っちゃったしぃ、それにぃ、二人っきりなんですものぉ♪キャッ、言っちゃった♪」
場違いなメレの喜びように、理央も苦笑せずにはいられなかった。
「しかし、これでは動きようがないな。どうすれば」
とはいっても、上も下も、右も左も、まるっきりわからない状態では、さすがの理央でもどうしようもなかった。
「でも、理央様。ここは理央様に手を差し伸べられる前にいた場所とは違う気がします。どこがと言われると、よくわからないんですけれど」
理央と一緒にいるからというわけでもない。でも、あの絶望しかなかった暗闇の中とはどこか違う気がしていたメレだった。
「そうか。俺にはよくわからないんだが」
「当然ですわ。だって、理央様は初めてで、私は二度目なんですもの」
メレは屈託なくそう言って微笑んだ。
二度目。メレをこういう状況に追い込んだのは、他の誰でもない、自分なのだ。
「…すまない」
そこには臨獣殿頭首でもなく、獣拳の拳士でもない、ただの理央がいた。
「…い、いやですわ、理央様ったら!理央様には何一つ落ち度なんてないんです。私は理央様にお逢いできて救われてとても幸せなんですよ♪」
理央に手を差し伸べられず、あのままずっと絶望の闇の中にいたかもしれないと思うと、メレの背筋に冷たいものが走った。
「このままここにいてもしょうがないだろう。少し歩いてみよう」
メレの手を握ったまま、理央は先頭に立って歩き出した。