Page: 1/1
|
「あなたの中に私なんていないから。だから、さよなら」
そう言って去っていった彼女は、夕焼けに照らされてやけに綺麗に見えた。
これで何度目だろう。同じような台詞で別れを告げられたのは。
ゴウは彼女の去っていったほうを、夕日が沈んでも見つめていた。
「兄さん、また、振られたのかい?」
「そうなんですよ。今度こそはと思ったんですけどねぇ」
「やーい、やーい、ふられっこ!」
「もう!やめなさい!ジャンったら!」
「ゴウはダメダメ!女心ってものをまったくわかってない。そもそも女性というものは、だ…」
ケンがいつもの女性談義を始めたが、ゴウの耳には入っていなかった。
「それにしても、こう何度も続くとのう。行方がわからなかったあの頃に、何か置き忘れてきたのかのう」
ゴウの見事なまでの振られっぷりに、さすがのシャーフーまでもが苦言を呈した。ゴウ自信も本当にそうかと思ってしまう。忘れてきたものなら、何をどうやっても探しに行くのだが。
「ゴウ。あなた、彼女と二人のとき、どんなことを話しているの?」
それまで黙って仕事をしていた美希が、初めて口を開いた。
「そんな特別なことは…。スクラッチのこととか、修行のこととか、あぁ、お前たちのことも話すかな。理央のことも話したっけ。それから…」
「ストーーーップ!」
いきなり美希がゴウの話を遮った。
「あなたねぇ、まったく、はぁぁ」
そして、大きく長~いため息を一つついた。
「原因は、それよ」
美希はゴウの前にビシッと人差し指を向けた。
「えっ?それ?それって、なんだ?美希」
まったく見当のつかないゴウは、すがるような瞳で美希を見つめた。
それにしても、こんなにうろたえるゴウを見られることもそうないだろう。
「ゴウ。あなた、彼女と二人でいるときに彼女の話を聞いてあげたりした?二人のこれからについて話し合ったりした?」
美希の問いに過去の記憶を振り返るが、自分が喋ったことしか思い出せなかった。
「いや、でも、美希。俺はいつだって紳士的に接していたし、それに、その、誕生日とかそういうものもやったし、もちろんプレゼントだって!」
「だーかーらっ!それだけじゃだめだって言ってるんでしょうが!」
ゴウの言い訳にそれこそ業を煮やした美希が切れた。
「いい!?この際だから、男性人はよく聞いておくこと!もちろん、シャーフーもです!」
急に名前を呼ばれて、シャーフーはビクッと首を引っ込めた。心の中で(どうしてわしまで…)とは思ったが、美希の剣幕にその言葉を飲み込んだ。
ランを除いた男性人(もちろんバエも)は幾分小さくなりながら、神妙な面持ちで美希の次の言葉を待った。
「付き合っている女性に対して、優しく接して、一緒にお祝いをして、プレゼントをあげて、なーんてことだけすればいいってものじゃないの。女性が欲しいのは彼の心からの気持ち。自分だけを愛してくれているという気持ちが、女性の自信につながるの。お祝いもプレゼントもないよりはあったほうがいいに決まってるけど、なくてもかまわないのよ」
「しかし、気持ちといわれてもじゃなぁ、どう表せばよいのか」
シャーフーの言葉に、男性人は首を縦に大きく振って、同意の意思表示をした。
「はぁ、まったく、シャーフーまで。よくそれでモテモテだったなんて言っておられましたね」
美希の言葉にシャーフーがさらに小さくなった。拳聖の威厳など形無しの姿だった。
「いいですか?本当に大切に思っている相手なら、自ずと言葉なり態度なりに出るものです。そして、相手が去ってしまったというのに、綺麗に見送るなんてできるはずがないんです。それができるなら、それはその相手のことを本当に好きでも愛してもなかったということです」
『相手のことを本当に好きでも愛してもなかったということ』
その言葉に、ゴウは大きくショックを受けた。
そして、意味がわからなかったジャン以外も。
「どうしたんだ、みんな?なんでシオシオになっちゃったんだ?」
「いいのよ、ジャン、ほっとけば。結局、ゴウさんだけじゃなくって、みんな、思い当たるって事なのね」
みんなの様子を呆れ顔で見ていた美希が、最後に一言こう言った。
「みんな、本気の恋をしなさい!」
= Fin =