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「味噌汁?」
「…どうかしましたか?光永さん」
自分の口から疑問がそのまま零れていたことに、由輝の問いかけがあるまで陽太自身、気づいていなかった。
「あ、いや…うん」
曖昧な返事をしながら迷っていた陽太だが、やはり聞いてしまおうと思いなおした。
「さっきの。津崎先生が言ってた、味噌汁って…」
「ああ!それはですね」
陽太の疑問に由輝は彼女らしく丁寧に答えた。陽太との付き合いを認めてもらうために津崎先生宅に泊まり込んだこと。その際に、自分のできる範囲でお仕事のお手伝いをさせてもらったこと。生徒のことを常に考え、食事もままならない様子なのを見かねて、差し出がましいかとは思いながらも食事の用意をさせてもらったこと。食事も、栄養バランスを考えつつ、一汁三菜用意したこと。お宅にお邪魔させてもらっているので、米と味噌は自宅から持って行ったこと。由輝の話を聞きながら、津崎先生の周囲を忙しくくるくると動き回る彼女の姿を思い浮かべつつ、本来は自分のためであるとはいえ、どこか陽太はすっきりしなかった。
「ふーん。…そんなこと、してたんだ」
どこかトーンの低いよう他の物言いを敏感に由輝は察知した。
「あの、光永さん。何か、いけなかったでしょうか」
ベンチに座っていてさえも陽太よりうんと小さい由輝は、下から伺うように陽太を見上げる。自分よりも小さいくせに、いつも一生懸命でひたむきで、たとえようもないほど愛らしくて。溢れる気持ちを抑えきれず、ここが校内だということも忘れて、陽太は由輝にキスをした。
不意のキスに戸惑いながらも、ぎこちなく陽太のキスを受ける。少しずつ慣れてくる由輝の様子がまた、陽太にはたまらない。もう少し、あと少し…と、後ろ髪ひかれる思いで、やっと由輝から離れる。その、僅かずつ長くなっていくキスの時間に気づいているのかいないのか、由輝が赤く染まる。
「これからはさ、俺に、ずっと味噌汁を作って」
「えっ!?あ、はい。それじゃあ、明日のお昼のお弁当の時に持ってきますね」
ニコニコして由輝は答えるが、陽太の表情は変わらない。うなだれるようにうつむいて、はあーっと長い息をついた。
「あ、あの、光永さん…」
そんな陽太を見て、わけもわからずオロオロする由輝に、陽太はゆっくりと顔を上げ、真っすぐに由輝を見つめた。その真剣なまなざしに、由輝の熱がカッと上がる。そのまま後ろに倒れそうになるのを何とか必死でこらえた。
「一応、今の、プロポーズ、なんだけど」
幾度か、「ずっと」だとか「これからも」だとか意識して使ってみているのだが、言われた由輝のほうは驚いて嬉しそうな顔はするものの、、とても陽太の意図が伝わっているとは思えない。だから、少し、本気だというところをアピールしたかっただけなのだが…。「プロポーズ」という言葉が衝撃過ぎたのか、やっぱり由輝は後ろに倒れこんでしまったのだった。
= Fin =