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Cool Box  - 影野だって青春したい -

麗奈と幸子と友達の定義

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「あのさあ、あんたに聞いてみたかったことがあるんだよね」
「なんでしょう?雨宮さん」
「何?急にどうしたの、麗奈ちゃん」

学校位置の美少女と名高い雨宮麗奈が、同じく学校一目立たない影野由輝に、突然切り出した。最初は、今は由輝の本当の彼氏となった光永陽太を巡って、色々と諍いもあった二人だが、今は由輝と同じパンダ好きの吉川幸子を含め、3人で話すことも多くなった。

「あんたと光永くん、どっちが最初に告ったの?」
「へっ?」
「きゃっ!麗奈ちゃん!そんなこと聞いちゃうの?」
「いや、だって。気になるでしょ、さっちんだって。この組み合わせ、見てる今でも不思議だもん」

イケメン・光永と根暗・影野の組み合わせは、今では学校の七不思議の一つとなっている。

「あんたから、って感じじゃなさそうだしねえ」
「そうだねぇ。影野ちゃんってイメージじゃないよねえ」
「じゃあ、やっぱり、光永くんから、か」

そういえば…、と、由輝は思い出していた。最初は女性にもて過ぎて困り果てた陽太からの、「彼女のフリをして」という依頼からすべて始まったのだった。

「そ、そんなこと、どうでもいいじゃないですか」
「いや、まあ、どうでもいいっちゃいいんだけど、気になってさ」
「確かに。気になるよねえ」

麗奈と幸子の二人が由輝をじっと見る。いくら友達だといえ、見られることに慣れていない由輝に、この状況は心臓に悪い。

「と、特別なことは、多分、ないですから」

陽太とお付き合いさせてもらっているということ自体、自分の人生で特別なことだと思っている由輝にとって、今の状況全てが特別と言っても過言ではない。

「ふ~ん。言えないんだ」
「えっ」
「私たちには言えないんだって。友達だと思ってたのになあ。ねえ、さっちん」
「う~ん。無理に聞きたいわけじゃないけど」

麗奈の執拗な攻撃に、幸子は苦笑いで答える。
ただ、生まれてこの方、友達という存在に縁がなかった由輝にとって、友達の定義をかさにこういわれると非常に弱い。

「と、友達になってくれるからって」
「は?」
「最初は、友達になってくれるから、だから彼女のフリしてくれって。それで…」
「やっぱりあの時は嘘だったんだ。じゃなくて!えっ、何、それ?その、上から目線」
「ちょ、影野ちゃん。今もそうじゃないんだよね?今はちゃんと彼女なんだよね?」
「そ、そうだよ!あんた、騙されてないよね?」

麗奈と幸子の二人からそれぞれ肩を掴まれてぐわんぐわんと揺すられる。ずり落ちる眼鏡を直しながら、由輝は一生懸命否定した。

「だ、騙されてませんし、今は、ちゃんと、お付き合いさせてもらってます!」
「ほんとなの、影野」
「嘘じゃないんだよね、影野ちゃん」
「本当です!嘘じゃありません!」

二人の拘束からやっと解き放たれて、由輝はちゃんと眼鏡をかけ直すことができた。

「ちゃ、ちゃんと、こ、告白もされましたし、それに、ご家族にもご挨拶させていただきましたから」

その時のことを思い出すのか、由輝は真っ赤になって説明する。しかし、二人はなぜか渋い顔だ。

「まあ、今はそうなんだろうけど」
「家族にも会ったんなら嘘じゃなさそうだけど」

でもねぇ、と二人は顔を見合わせる。由輝には二人の思っていることがわからない。

「あの…、何か、問題あるんでしょうか?」

二人の疑問にも気づかず、きょとんとする由輝に、二人は顔を見合わせた後、盛大に溜息をついた。

「うん、まあ。あんたのことだから、そうだとは思うんだけどさ」
「影野ちゃんはおかしいと思ってないんだろうけど。それ、おかしいと思うよ」
「は?」

二人は何かが変だと言っているらしい。それが、由輝にはさっぱり見当がつかない。

「えっと、何か、おかしいでしょうか?」
「いや、おかしいでしょ。友達になってやるからって。何様って感じじゃない?」
「うん。ちょっと幻滅かも」

どうやら、二人のおかしいと思っていることは、陽太のことらしい。でも、陽太のことを崇拝しきっている由輝には、どこがおかしいのかもわからない。

「な、何でですか!こんな、チビでバカで根暗メガネで、今まで一人も友達がいなくて、こんな私と友達になってくださるって言ってくださったんですよ。光永さんは、私にとって救世主なんです」

由輝は本気でそう思っているが、そう言えば言うほど、二人の顔は渋くなっていく。

「いや、違うでしょ。なろうならわかるけど、なってやるって違くない?」
「うん。それは違うと思うよ、影野ちゃん」

激しいタイプの麗奈だけでなく、静かなタイプの幸子までがそう言うので、由輝はだんだん、自信がなくなってきてしまった。

「で、でも!光永さんは、本当に良い人なんです。私には勿体ないくらいで…」

こんな私が何を言っても、光永さんの良さは伝え切れないのかもしれない…。由輝はそう思って、悲しさのあまり俯いてしまった。
由輝ほど真っ直ぐでわかりやすい人間はいない。短い時間とはいえ、彼女との関係を気づいてきた二人には、みなまで聞かずともわかっていた。

「別に、あんたを泣かしたいわけじゃないのよ」

小さい声で麗奈が呟く。その呟きを聞いて、幸子が嬉しそうに微笑む。由輝は気づかない。

「影野ちゃん」
「はい」
「今は、友達が増えたよね」
「へ?それはどういう…」
「ばか!わかんないの?私たちだってそうでしょ!」

がばっと顔を上げると、照れたように顔を背けた麗奈と、にっこり微笑んでいる幸子が目に入る。

そっか。二人とも、友達なんだ。

改めて気づくと、何だか気恥ずかしい。

「は、はい!お二人とも、友達ですっ!」

笑顔で宣言する由輝に、麗奈は「今さら何言ってんのよ」と毒づき、「よかったね」と幸子は笑う。友達っていいなと、由輝は心の底から、二人に感謝した。





= Fin =



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