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ある日、陽太は呼び出されていた。
「えっと、何?」
彼の経験上、女性に呼び出されることは、お付き合いの告白をされることがほとんどだ。だがしかし、この場合は違うなと思うのだが、かといって、それ以外の呼び出し理由がトンとわからない。
頭上にはてなが浮いている陽太の前にいるのは、二人の女生徒。彼が付き合っている由輝の数少ない女友達でもある、雨宮麗奈と吉川幸子の二人だった。
「影野になんかあった?」
二人との共通項といえば、陽太に思いつくのは由輝のことしかない。ただ、二人に呼び出される理由はわからないが。
「あったといえばあるし、ないといえばないわ」
綺麗な顔の眉間に深い皺を刻み、麗奈は陽太を見据える。どことなく睨まれてる気がするのは、陽太の気のせいだろうか。
「ごめんね、光永くん。でも、ちょっと確認しておきたくて」
厳しい表情の麗奈と違い、幸子の表情はまだ柔らかい。でも、一見大人しそうな彼女には、黙って帰させてはくれない、ちょっと怖い雰囲気も感じる。
「確認って、何のこと?」
陽太にはさっぱり見当がつかない。由輝のことだとは思うが、さて、こんなにすごまれるようなこと、自分はやったのだろうか。
「影野のことなんだけど」
そう麗奈に切り出されて、陽太は、やっぱり、と思った。
「今は、ちゃんと付き合ってるんだよね」
「え?何?」
何故そんなことを聞かれるんだろう、と陽太が思うのは当然のことだ。しかし、目の前の二人は、そのことにちゃんと答えるまで返さないという雰囲気がありありだ。
「ちゃんとの意味がわからないけど。影野と付き合ってるのは本当だよ」
陽太の返事に、二人は目を見合わせて頷く。
「ならいいんだけどさ。あいつ、バカがつくほど真面目だからさ。泣かさないでやってよね」
「もし、影野ちゃんが光永くんのことで泣いてたら、私たち、許さないからね」
言われた陽太はさっぱりわけがわからない。由輝がまた何かをこじらせて考えたのかと思ったが、ついさっきまで一緒にいたがそんな様子は全然なかった、はずだ。
「影野に、なんかあったの?」
それでも、自分が気づかないところで何かあったのかもしれない。というか、そういうことがよくあるから、陽太としても気が気でないときもある。
「何もないけど、二人の始まりがありえなかったからさ」
陽太が頭上にはてなを飛ばしていると、横から幸子が補足してくれた。
「さっき聞いたんだ、影野ちゃんに。光永くん、影野ちゃんに、彼女のフリしてくれたら友達になってやるって言ったんだよね」
「あ、ああ。そう、だけど」
「今はちゃんと付き合ってるみたいだからいいんだけど、なってやるって上から目線なのがちょっと気になって。で、麗奈ちゃんと確認しとこうってなったんだ」
「…そ、そう」
今はすっかり幸せだから、陽太だって忘れていたことだった。
確かに、言われてみれば、信じられないほど上から目線の自分に、頭から水をかけてやろうかと思うほどだ。そのことを、由輝の女友達である二人は、心配して確認しにきたんだと、やっと理解した。
「あれは!…確かに、自分でもどうかと思うけど…。今は影野を大事にしてるし、俺は、影野しか見てないから」
嘘偽りない、陽太の本心。彼女を知れば知るほど、彼女しかいらない。そんな強い気持ちが自分にあることを、陽太は由輝によって初めて知ったほどだ。
陽太の強い言葉と瞳に、一瞬、赤面してしまった二人だったが、互いに顔を見合わせ、うんと納得するように頷いた。
「泣かせないでよね。影野を」
「そうだよ。影野ちゃんが泣いてたらぶっとばすから!」
「さっちん、私の分も残しといてよね」
「え?なんで?」
「だって、さっちん、手加減ないじゃん」
「なんで手加減するの?影野ちゃんが泣いてるのに」
「だーかーら!全部やっちゃったら、私の分がないじゃん!」
「あ!そうか」
「そうだよ!」
「んー。でも、やっぱり手加減しない」
「なんでよ」
「だって、影野ちゃんが泣いてるんだもん」
「…そっか。なら、しょうがないか」
由輝が本当に泣いてるわけでもないのに、そんな物騒な話をする二人を見て、苦笑いするしかなかった陽太だった。
= Fin =