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昼下がりの静かな時間。青年と少女は近所で評判のみたらし団子と今年最初の新茶を楽しんでいた。
「ねえ。津軽の一番好きな食べものって何?」
「ん?一体何だい。急に」
「いいじゃない!答えてよ!」
そうだなぁ、と言いながら、顎に手をやり考え込む青年は藤島津軽という。老舗呉服問屋の長男で、現在は支店を一つ任されているのだが、業務のほとんどを番頭にまかせっきりで、彼は別の仕事にばかりかまけている。彼自身は仕事と言っているが、金にもならない人探しや物探しが主で、ほとんど趣味といってもいい。
そんな彼を真剣な瞳で見つめているのは、『縁』あって彼に身請けされた少女、鈴子という。幼い顔に大人びた瞳の少女は、彼の実益のない仕事のアシスタントだ。
「そうだねぇ。肉も好きだし、魚も好きだし。ああ、季節の旬の野菜もそれぞれ美味しいよね」
「食べれるものを聞いているんじゃないのよ!その中で津軽が一番好きなものを聞いてるの!」
そうは言っても全て好きなんだけどねぇ、と言いながら、彼は瞳を宙に彷徨わせながら考え込んでいたが、不意に何かを思いついたようで、あっと小さく声を出した。
「何?何が好きなの?」
「うん。僕が好きなのはね、君が美味しそうに食べるもの、かな」
そう言って彼は少女を見てにっこりと微笑んだ。
微笑まれた少女の方は、見る見るうちに赤くなって…。
「ば、馬鹿じゃないの!」
そう言い置いて、その場から逃げるように走り去ってしまった。
「馬鹿って…。本当なんだけどなあ」
少女の飲みかけの湯飲みに目をやりながら、青年は邪気なく呟いた。
= Fin =