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「白雪さん、オビさんは?」
「えっ?オビ?…さ、さあ」
白雪の上司であるはずなのに、自分よりも年上だからなのか、リュウは白雪を呼び捨てたりしない。
「今日はまだ見てませんけど。えっと、オビに用事でも?リュウ」
基本的に人への執着が少ないリュウが、誰かのことを尋ねること自体が珍しい。
「…薬室長に報告書、届けてくる」
「あ、はい。いってらっしゃい、リュウ」
白雪の問いに答えず、12歳という年の割りに小さい体で書類の束を抱え、リュウは部屋を出て行った。
「な、何かあったんだろうか。オビと」
「俺がどうかした?お嬢さん」
さっきまで気配さえもなかったのに、いつの間にか音もなく白雪の近くにいたオビが返事した。
「オ、オビ!いつからいたの?」
「ついさっきだよ。リュウ坊が部屋出て行くのがちらっと見えたかな」
そう言いながら、オビはひょいっと身軽に窓を超えて窓枠に腰掛けた。
いつものように飄々と、誰も許可していないのに当たり前のようにそばに来て、いつしかそれが当たり前のようになっているのがオビだ。
「それで、お嬢さん。俺がどうかしたの?」
「あ、うん。リュウがね」
「リュウ坊?」
「うん。オビのこと聞いてきたんだ」
「俺のこと?」
「そう。…それだけなんだけど」
「ふ~ん。そっか」
オビは窓枠から腰をあげ、再びひょいっと窓を超えて外に出た。
「あれ?どこ行くの、オビ」
「ちょっと木々嬢のとこ。用事があったの思い出した」
「そ、そう。いってらっしゃい」
白雪の返事に片手を上げて返し、オビは身軽に走り出した。