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浅見光彦倶楽部会報誌「浅見ジャーナル89号」の企画より
~浅見さんに「あなたにとって”浅見光彦倶楽部”は何ですか」と問われたら~
「あなたにとって”浅見光彦倶楽部”は何ですか」
浅見さんは優しく微笑んで私に尋ねた。
邪気のないその微笑みは、気がなくても少しどきりとしてしまう。
「私にとって…」
少し考えた後、私は浅見さんの目を見て答えた。
「ミステリーの入り口、でしょうか」
「ミステリーの入り口、ですか?」
浅見さんは不思議そうに、でも、どこか面白いものでも見つけたように問い返した。
「はい。元々、ミステリーものって好きだったんですけど、それをもっと身近に感じさせてくれたのが”浅見光彦倶楽部”だったと思うんです。ミステリーツアーの企画もあったじゃないですか。2回ほど参加させてもらったことがあるんですけど、あれなんて小説の世界に飛び込んじゃったみたいで、ミステリーの世界に私もいるって感じで、すっごく楽しかったんです!ほら、ここ。浅見ジャーナル89号の5ページ。”えひめミステリーツアー”の写真あるでしょ。この左端、私なんですよ♪」
「ほう。小さいけれど、確かに」
浅見さんは私と会報誌を見比べながら言った。
「こんな風にミステリーを身近に感じさせてくれたことは、今でも素敵な思い出で、時折、私の中に甦ってくるんです。他にも、ドラマのロケや原作者の内田先生との交流とか、浅見光彦倶楽部があって、そして、こうやって扉を開いてくれたから、だと思うんです。だから、”浅見光彦倶楽部”は、私にとって”ミステリーの入り口”なんです!」
少し鼻息荒く力説する私に、浅見さんは「ははは」と柔らかく笑った。
「ねえ。浅見さん」
「はい」
改まって名前を読んだ私に気づき、浅見さんも笑いを止め、神妙な顔で返事した。
「”浅見光彦倶楽部”は、形は変わるとはいえ、なくなってしまうってことですよね。時代とともに色々変わってしまうのは、それはしょうがないことだとは思うんですけど。でも…、私達、不変ですよね?」
あえて”何が”とは言わなかった。人の心の機知に富んだ名探偵・浅見光彦ならば、私の言わんとしていることなど理解しているに違いないと思ったからだった。
「もちろんです」
浅見さんは私の目を見ながら、力強くそう言って頷いた。
「時が過ぎていくということは、変化することに他なりません。それでも、その中に変わらないものもあると、僕は信じています。どれだけ僕が年をとってしまっても、見た目がよぼよぼのおじいさんになってしまっても、僕の心の本質は変わりません」
つい今しがたの私のように、浅見さんも息荒く力説した。そんな彼を見て、私は思わず笑ってしまった。
「おじいさんになっても、浅見さんのかっこ良さだって変わらないと思いますよ。もちろん、はげてしまっても」
私がからかうようにそう言うと、浅見さんは頭に手をやり嫌そうに「はげるのはちょっと…」と呟いた。
そんな彼を見ながら私はさらに笑ってしまったのだった。
= Fin =