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とある小さな国のそのまた小さな村のうんとはしっこに1件の家がありました。そこには年老いたおじいさんとお母さんとヤポックという一人の男の子が仲良く暮らしていました。食べていけるだけの小さな畑と1頭の牛に2匹の山羊、5羽の鶏が財産のすべてでした。
木枯らしの吹いたある日、おじいさんが胸を押さえて苦しそうに倒れてしまいました。急いで近くの、とはいっても大人の足でも朝出て昼にならないとつかない距離ですが、お医者に来てもらいました。お医者はおじいさんの目や口の中、胸やお腹を丁寧に手で触りながら診ていましたが、小さく横に首を振ってお母さんの方を向き、「あと2、3日の命でしょう。」といって帰っていきました。
次の日の朝、お母さんはヤポックに「おじいさんをお願いね。」といって自分は畑仕事に出かけました。ヤポックの家にはお父さんがいません。ですから、お母さんもおじいさんの事が心配でしたが、おじいさんのお医者代や自分たちのこれからの事を考えると働きに出るほかはなかったのでした。
お母さんの背中を見送った後、ヤポックはおじいさんの看病をするためにおじいさんの部屋へ行きました。看病といっても特にする事はありません。ただ、苦しそうなおじいさんを横で見ているしかありませんでした。しょうがないので、ヤポックはおじいさんが寝ているベットの側にイスを運び、おじいさんを看ていることにしました。
しばらくすると、おじいさんが「ううっ」と呻き声を上げて目をぱちりと開けました。おじいさんは辺りを確かめるように目だけを動かして周りを見ていましたが、ヤポックに気が付くとヤポックのほうを見てにこりと笑いました。ヤポックもおじいさんのほうを見てにこりと笑いかけました。
「今日はいい天気だな。」
おじいさんは窓から差し込む太陽の光に目を細めながらいいました。そして、窓の脇にあるチェストを指差し、「一番上の引き出しにある小さな箱を取り出しておくれ。」といいました。チェストはヤポックの背の高さほどあるので上の引き出しに手は届いても中は見えません。ヤポックは自分が座っていたイスをチェストの前に置き、イスの上に上って引出しを開けました。中にはペンやノートなど色んなものが入っていましたが、その奥に小さな木の箱は大事そうにしまわれていました。ヤポックはそれを手の平にのせおじいさんに手渡しました。しばらくおじいさんはまぶしそうにそれを見つめていましたが、まだ立ったままのヤポックを側に呼び寄せ、その木箱をヤポックに渡しました。そして、「ヤポック、これはお前にあげよう。」といって、にっこり微笑みました。
「これは何?」
ヤポックはおじいさんに尋ねました。するとおじいさんは「あけてごらん。」といったので、ヤポックは膝の上に木箱を置き両手でそおっとふたを開いてみました。箱の中には真っ白い布が敷き詰めてありました。
「白い布があるだけだよ。」
ヤポックがそういうと、「その白い布を開いてごらん。」とおじいさんはいいました。そのとおりにきれいに重ねられている真っ白い布を開いてみますと、真ん中にヤポックの親指くらいの茶色の種がありました。ヤポックはそれを右手の親指と人差し指で掴み、陽にかざすようにして眺めました。
「これは、何の種なの?」
「それは『シード』さ。」
そういって、おじいさんは遠くを見るように語り出しました。