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海のはての小さな島にウィッチャードの家はありました。ウィッチャード家は代々魔女を生業とする一家で、今は3人の魔女がそこに住んでいました。
魔女といいますと、黒いとんがり帽子をかぶった鼻の長い不思議なおばあさんを想像しそうですが、ウィッチャード家の魔女たちはそういう魔女とは一風違っていました。
ウィルムおばあさんは小さな鼻めがねをかけた優しそうなおばあさんでしたし、ウィラーお母さんはエプロンのよく似合うお料理の上手なお母さん、メイジャちゃんは魔女と呼ぶにはまだ小さな女の子でした。
そして、魔女とはいってもウィッチャード家の人たちはあまり魔法が得意ではありませんでした。ほんの少しの魔法が使えることは使えるのですが、普段は人より少し目がいいだの鼻が利く程度の、魔法というにはあまりにも物足りないくらいのものしか使うことができなかったからです。
例えば、ウィルムおばあちゃんは海のはてで飛び跳ねた魚がどんな模様だったかを見分けられる程度でしたし、ウィラーお母さんは市場のはしで喋っている人の声が誰かが聞き分けられる程度のものでした。そして、メイジャちゃんは10件ほど先の家の晩ご飯が何か嗅ぎ分けられる程度のものでした。それもみんなうんと集中しないと使えないというとても疲れるものでしたので、普段はまったく使うこともありませんでした。
それでは普段はどうして過ごしていたかといいますと、魔法薬の知識を生かして腹痛や頭痛などの薬を作りそれを売って生活していました。ウィッチャード家の薬はよく効くと評判で、注文はいろんな国や村からありましたので、それを作るだけで毎日は過ぎていきました。
けれども、毎年この10の月だけは薬作り以外のことで大忙しでした。その月の最後の夜といえば魔法の力が一番強くなる時なので、いつもはたいした魔法が使えないウィッチャード家の魔女も大昔のように大きな魔法が使えることができるのでした。そして、その噂を聞きつけた人たちから魔法で願いをかなえてほしいという依頼が殺到するのでした。けれども、いくらその日は魔法が使えるとはいえ、魔女の数も時間もほんの少ししかありません。そのうえ、毎日山のように届く依頼の手紙すべての願いを叶えることなんてとでもできません。困りに困ったウィッチャード家の魔女は願いを叶えるものと叶えないものとに手紙を分けることにしました。
分け方はごく簡単です。普段つかえる小さな魔法を利用して手紙を1通1通『見分け』ていくのです。ウィルムおばあちゃんはよく見える目で、ウィラーお母さんはよく聞こえる耳で、メイジャちゃんはよく利く鼻で手紙を1通ずつ『見分け』ていくのです。しかし、いくら簡単とはいえ、量がハンパではありません。1日どれだけ頑張っても1人500通が精一杯です。ですから、10の月は最初の日の朝から手紙の仕分けに大忙しなのでした。