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太陽の仕事は、朝はみんなを起こし、昼は光を与え、夜は地球の裏側から月を照らしていました。毎日毎日、その仕事をお休みすることはありませんでした。
「月さんはいいなぁ。休めるときがあって」
太陽に比べて月は地球の裏に回ったときは休んでいることができました。
「そうだね、太陽さんは大変だね」
月は太陽に同情しました。
「月さんは休んでいるときは何をしてるんだい?」
太陽は休んだことがないのでまったく想像がつきません。
「そうだなぁ。時々星と一緒にしゃべったり、踊ることもあるね。ずっと歌っていることだってあるよ」
それを聞いた太陽はどきどきして、なんて素敵なんだろうと思いました。そして、自分もしゃべったり踊ったり、ずっと歌ったりしてみたいと思いました。でも、どうやってそんな素敵なことをすればいいのでしょう。だって、太陽には朝も昼も夜もみんなのためにしなくてはならないことがたくさんあるのです。
「はぁ、とてもじゃないけどお休みなんてできそうもないや」
太陽はがっくりしました。そのせいで、昼間だというのに光の力が少し弱くなってしまいました。それに気づいた太陽は慌ててしゃきっと背筋を正すと、また元のように光の力が強まりました。
「ちょっと気をぬいただけでこうさ」
太陽は力なく笑って、それでも光の力だけは弱まらせないようにしました。
月は太陽のことがかわいそうになりました。自分は太陽に照らしてもらっているのに何もできないことが悔しくなって、太陽に休んでもらおうと色々考えました。そのとき、ふといい考えが頭に浮かびました。
「太陽さん、いいことを思いついたよ」
「いいことってなんだい?月さん」
「雲を使うのさ」
太陽には何のことだかさっぱりわかりません。
「なんのことだい、月さん」
月は少しじれったそうに語りました。
「さっきのお休みのことさ。漂っている雲を集めて太陽さんを隠してやれば、その間はお休みできると思うんだ。どうだい?」
月の思いつきに太陽はどきどきしました。太陽を隠せるだけの雲を集めてしまえば、確かにその間だけでもお休みできそうです。
「それはとても素敵な考えだね。早速、雲たちに呼びかけてみよう」
太陽はあちらこちらに散らばっている雲に話しかけました。
「雲さーん。話があるんだけどいいかい?」
ばらばらに散らばっている雲たちから「なんだい、太陽さん」と返事が返ってきました。
「君たちは集まるとどれくらいになるんだい?」
太陽の問いかけにひとつの雲が答えました。
「そうだね、集まったことないけど、大きいのやら小さいのやら集まるとずいぶん大きくなることは間違いないね」
太陽はうなずきながらさらに雲に問いました。
「それだと僕なんて隠れてしまうかな?」
今度は近くにある一番大きな雲が答えました。
「もちろん簡単だよ」
太陽と月は顔を見合わせて微笑みました。
「太陽さん、お休みできそうだね」
「ありがとう、月さん」
それから、雲たちにお願いして集まってもらうことにしました。中には一人がいいという雲もいましたが、それでも太陽が隠れるには十分な雲が集まってくれました。そのせいで地球には太陽の光の力が届かなくなってしまいました。それでは困ると思った太陽はほんの少しだけお休みをすることにしました。
「歌を歌おうか。それとも踊ってみようか。悩むなぁ」
雲で隠された太陽は何をしようかとどきどき、わくわくしていました。歌を歌うのもいいし、踊るのも魅力的に思えました。そう、今このときこそ自分だけの時間なのです。
「太陽さん、もうそろそろばらばらになってもいいかなぁ」
小さな雲のひとつが太陽に話しかけました。悩んでいるうちにずいぶんと時間だけがたってしまったようでした。
「そ、そうだね。ありがとう、雲さん」
太陽がそういうと、途端に雲たちはばらばらに散らばっていきました。太陽の初めてのお休みはあっという間に終わってしまいました。
「どうだい?お休みはできたかい?」
「月さん、やっぱり僕にはゆっくりお休みはできそうもないや」
そういうと太陽はいつものように力強くみんなを照らしました。
= Fin =