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「水着で、海に?」
あまり人の来ない静かな公園で、二人は貴重な逢瀬を楽しんでいた。
会話はクリスがフランス人の客から聞いた海と水着の話だ。二人きりだとクリスはいつもよりよく喋る。
「ええ。暑い夏の日はプライベートなビーチで水着を着て泳いだりするのですって。シャーリーは泳いだこと、ある?」
川で泳いだことを思い返しながら、「海ではないけど」とクリスに返した。
「海で泳ぐのってどんな感じなのかしら」
クリスは目の前に流れる小川の水面を見ながら言った。
どちらかというと慎重なクリスにしては珍しく大胆な発言だ。シャーロックは「海に言って見たいのか?」と尋ねた。
「海は見たことあるんだけど、お客様のお話とイメージが違ってて。少し見てみたいなと思ったの。それに」
クリスはそこで言葉を切って、湖面を踊る光のように瞳を輝かせながらシャーロックを見つめた。
「シャーリーと二人きりなら、水着になるのもいいかもって」
思わずシャーロックは前にのめり込んだ。
「いや、でも、水着はかなり肌を露出するって」
そう言いながらシャーロックの脳裏には、目の前のクリスのドレスが少しずつはだけていくように見えた。
胸元があらわになりかける寸前で、彼は大きく頭を振り、その不埒な妄想をかき消して見せた。
「その、海は、大丈夫なのか」
聞きたいことはそこではないが、何か言わずにはおれなくて、シャーロックは尋ねた。
「大丈夫だと思う。シャーリーは、いや?」
クリスが小首を傾げて尋ねる。二人きりだとクリスは少し甘えたようになる。そこが可愛いとシャーロックは思う。
「いやじゃないけど。プライベートビーチのある領地はあったかな」
ハクニール家の広大な領地を一つ一つ頭に思い浮かべていく。近くに人の寄れるような島もなく、漁船や商船の一隻も通らない、人の気配が全くない、栗栖が喜ぶような美しい砂浜のあるビーチが領地内にあったかどうか、シャーロックは帰ってからアントニーに大至急調べるよう申し付けるのだった。
= Fin =