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急いで受話器を取った。しかし、耳に当てた受話器から漏れ出てくる音はツーツーという切断音だけだった。
電話機が先ほどのメッセージが録音されてあることを、赤いランプの点滅で知らせている。しかし、それを聞く必要はなかった。なぜなら、すぐそばにいたからだ。
初めて聞いた声だった。知らない相手ではない。初めてメールで連絡を貰ってから6年が過ぎていた。それなのに声を聞いたのは初めてだった。そのことに改めて愕然とした。
どのくらいそうしていたのだろうか。何かが足に当たった。目線を下げると、一枚のはがき大のチラシがそこにあった。電話機の横へ無秩序に積み上げられていた郵便物の山から落ちてきたのだろうか。風もない室内なのに、どうして落ちてきたのだろう。屈みこんでそれを取ろうとして、何かにその行動を邪魔された。それが、右手に持ったままの受話器のせいだということにしばらくして気づいた。
受話器を元に戻し、チラシを手に取る。「片付け屋」と大きく屋号が記載されているチラシには、その店の紹介文が載せられていた。
『身の回りを片付けて、新しいあなたを見つけませんか?』
ポップなカラーのよくあるチラシだ。それなのに、その文面に惹きつけられた。
片付けて、新しい自分…
誘われるように、チラシに記載されていた電話番号をプッシュした。